日本酒専門家の知識
日本酒とは
日本酒とは「米を使い、なおかつこした酒」
麦や粟から作ったお酒は、穀物が原料であっても日本酒とは呼びません。
搾りの際に、布の目の粗さやこし具合によって色や飲んだ時の感じが異なります。
また、日本酒の原料米や製造方法に関する規定はこれまで定められていませんでしたが、
アメリカやカナダ、台湾などの海外産日本酒に対抗するという目的もあり、
2015年12月には「国産米を使い、日本国内で作られた酒のみが日本酒」と新たに定義づけられました。
クールジャパン推進の一環として一つとして日本酒や焼酎などのメイド・イン・ジャパンのお酒を海外に売り込もうという施策が取られたことや、
世界的な和食ブームによって日本酒は今、海外でも人気が上昇しています。
日本酒の歴史
日本での酒造りの歴史は古く、縄文時代にはすでにヤマブドウやキイチゴなどを使った果実酒のようなものが造られていたとされています。
日本酒の原料は米ですが、米から造った酒がいつ頃から存在したのかについてはっきりとした年代は実は分かっていません。
米を原料としたお酒が実在したことを示す記録が登場するのは、8世紀初めの奈良時代に遡ります。
713年に編纂された「大隅国風土記」にある口噛み酒が日本酒のルーツとされ、
米や雑穀、芋などのでんぷんを含んだ植物を口で噛み、唾液に含まれる酵素と野生酵母によってアルコール発酵し、酒になるというものでした。
食べることにも苦労する当時においては「酒」はまだ大衆的なものではなく、
朝廷に作られた「酒部」と呼ばれる機関が、朝廷のために酒を造っていました。
その後平安時代になると、寺院(僧侶)がそれぞれの荘園から得た米で酒造りをおこなう「僧坊酒」が誕生
一般の人々が酒を手に入れられるようになったのは、鎌倉時代以降
室町時代から戦国・安土時代にかけて、寺院の僧侶たちが造る僧坊酒は「品質の良い酒」として人気になる
なかでも菩提山正歴寺で作られた「菩提泉」はそれまでのにごり酒とは違い、清く澄んでおり、
現在の清酒のもとになったとされています。
僧坊酒は今の酒よりもかなり甘く、濃厚な香りを持った酒でした。
当時は酒造りの最中に腐らないように水を少なくしていたことで、
発酵が進み切らず糖が残りやすかったためにどうしても甘くなってしまったからとされています。
日本酒造りの確立
江戸時代には、現代の酒造りとほぼ変わらない酒造りの手法が確立
「寒造り」という最も酒造りに適している冬のみに酒造りを行う手法が始まり、
酒の腐造を防ぐことが可能になりました。
他にも、醪(もろみ)に焼酎を入れてアルコール度数を高くすることで酒を腐りにくくする「柱焼酎」といった手法や、
醪を数回に分けて仕込む「段仕込み」、酵素の働きを止め、日本酒の発酵を留める「火入れ」など様々な手法がこの時代に始まりました。
こうして酒造りの手法が確立されるとともに、原料である米をよく知る農民の中から酒造りのスぺシャリストが登場します。
造りの指示をだすリーダーである杜氏を中心として、蔵人と呼ばれ酒造労働者たちにより酒造りの分業化が進んだことで、酒の量産化が進みました。
杜氏は流派として受け継がれており、特に「南部(岩手)」「越後(新潟)」「丹波(兵庫)」は3大杜氏といわれ、日本酒の銘醸地となっています。
物資不足・酒税強化を越えて、大量生産の時代へ
明治時代に入り酒造りの自由化が進んだことで、
多くの酒蔵の誕生や現在も続くメーカーの創業が相次ぎますが、
同時に富国強兵による「増税」の影響で、一時は増えたはずの酒蔵の数は江戸時代よりも減ってしまいます。
江戸時代に約2万7千軒あった酒蔵は、1907年には8千件にまで減少したといわれています。
昭和時代に入ると戦争の影響が大きくなり、
日本酒業界はさらに増税や物資不足に苦しめられます。このような背景の中で、
醪に醸造アルコールと水を加えて、糖類や酸味料などで味を整えた「三増酒」など少ない原料で多くの日本酒を造る手法が生まれました。
効率よく大量に作れる三増酒は戦後も造られ続け、
高度成長期とともに訪れる日本酒受容の高まりとともに、日本酒は大量生産の時代を迎えます。
当時は蔵ごとに生産量の制限があったため、酒造メーカー間で原酒を供給し合い、
供給量を調整する「桶売り・桶買い」というものが一般化しました。
昭和30年代には、若者向けにいつでも手軽に楽しめることを目的に開発されたカップ酒や、
欧米で牛乳が紙パックで販売されていることに着目して作られたパック酒も登場します。
好景気の中、日本酒の景気はさらに拡大されていきました。
地酒ブーム
1940年(昭和15年)に生まれた「日本酒階級制度」により、酒を特級・一級・二級と等級に分ける級別制度を取っていましたが、
大量生産される酒に反発し、あえて審査を受けない蔵もありました。
そういった各地の蔵は、級別審査を受ける必要のない二級酒として純米酒や本醸造酒などを売り出して
いたのですが、1967年に雑誌『酒』で新潟・石本酒造の「越乃寒梅」が紹介され、全国の人々に認知されるようになりました。
それをきっかけに各地の優れた地酒が次々と紹介されるようになりました。
こうして1970年から1980年代にかけて地酒ブームが起こります。
新潟の「越乃寒梅」や宮城の「一ノ蔵」「浦霞」などの淡麗辛口の酒がブームになる一方で、山形の「十四代」や福島の「純米生酛」など米の旨みやコクのある芳醇旨口の酒も注目を集めるなど日本酒の多様化が進みました。
現在の日本酒市場
現在、日本酒の消費量は、1975年頃のピーク時の3分の1程度に減少し、出荷量も激減しています。
日本酒市場は一見右肩下がりのように見えますが、実は激減しているのは、出荷量の6割を占める普通酒で、
純米酒など一定以上の条件を満たす酒のみが名乗れる特定名称酒の出荷量はむしろ増えています。
量よりも、高品質な酒が求められる時代
世界から注目される日本酒
海外への日本酒輸出量も、この10年間でほぼ2倍に伸びており、日本酒が徐々に世界に認知されてきています。
ジェトロ(日本貿易振興機構)が2012年に海外7か国の日本料理店の顧客に対して行ったアンケートでは、
7割が「日本酒を飲んだことがある」と回答し、そのうち「非常に高く評価する」「やや高く評価する」という回答が8割にのぼりました。
このことからも日本酒が世界で認知されてきているとともに、
日本酒が世界から高い評価を受けていることが分かります。
クールジャパン推進の一環として一つとして日本酒や焼酎などのメイド・イン・ジャパンのお酒を海外に売り込もうという施策が取られていたり、2013年に「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録され、和食との関連性が深い日本酒の需要が高まっていたりと、今後も日本酒の輸出量は増えていくと予想されます。
若手蔵元の台頭と日本酒の多様化
近年、30代から40代の若手蔵元が注目されています。2010年、秋田県内の新政酒造、山本合名会社、栗林酒造店、福禄寿酒造、秋田醸造の5蔵が「NEXT5」という有志会を立ち上げ、2016年までで計7本の共同醸造酒を発表しました。
従来企業秘密とされてきた酒造りにおいて、情報を共有し共同で酒造りを行うという試みは、日本酒時代の新しい流れとして注目を集めています。また、日本酒の味わいの多角化も進んでいます。
昨今人気の日本酒のキーワードは「甘酸」「ドメーヌ化」「低アルコール」です。
甘味と酸味のバランスがよい甘酸タイプの酒は、白ワインの味わいにも似ています。この甘酸タイプの酒は若い層や女性の人気も獲得し、「日本酒はオヤジの飲み物」というイメージは過去のものとなりつつあります。またこのタイプの酒は、甘いだけでなく酸味もあるので「食中酒」に向いているといわれていて、近年食中酒として楽しむ日本酒が続々と発売されています。
ワイングラスで日本酒を楽しむスタイルが誕生したり、日本酒専用のバーやバル形式のお店も増えており、日本酒の楽しみ方も多角化しています。
地域性を重視した酒造りも近年の潮流の一つです。近年の分業化により、米を他から仕入れて酒造りを行うという蔵が多かったのですが、それでは本当の意味での「地酒」ではないという考えから、地元産の酒米を自営田で育て、蔵内で精米するという蔵が増えてきました。こうした米作りから一貫して行うことを「ドメーヌ化」と言います。
ワインのアルコール度数は10~14度、ビールが4~5度なのに対し、日本酒のアルコール度数は割水をして出荷される状態でも15~18度と、昨今酎ハイやビールを飲みなれた層にとっては、アルコール度数が高めで敬遠されがちでした。
そうしたイメージを払拭するためか、日本酒のアルコール度数は近年少しずつ下がる傾向にあります。中には日本酒を炭酸で割った商品なども登場し、日本酒初心者も気軽に試せるようになってきています。
消費者の好みに応じて日本酒の種類は多様化しているといえます。
酒の種類と製造方法
酒は製造法から醸造酒、蒸留酒、混成酒の3つに分類されます。醸造酒と蒸留酒は原料をアルコール発酵させて造ります。アルコール発酵とは、微生物の酵母がブドウ糖などの糖分を食べて分解することでエネルギーを得る過程で、炭酸ガスとアルコールを出す反応でお酒ができる基本的な原理です。原材料を混ぜ合わせて仕込んだものを醪(もろみ)といいます。醸造酒も蒸留酒も醪を作る段階までは同じですが、醸造酒は醪をそのまま絞るのに対して、蒸留酒は、熱を加えてアルコールを蒸発させた後、湯気になったアルコールを集めて再び冷まして液体にするので、純度の高いあるアルコールになります。
日本酒を蒸留したものが米焼酎、ワインを蒸留したものがブランデー、ビールを蒸留したものがウイスキーです。混成酒は既成の酒に糖分・アルコール・果実・香味料などを加えたもので、日本の梅酒やヨーロッパのリキュールなどがそれにあたります。
世界中の醸造酒の中でも、日本酒は特に複雑で高度な醸造方法をとります。同じ醸造酒のワインやビールと醸造の基本を比べてみましょう。ワインは原料となるブドウにもともと糖分が豊富に含まれているので、複雑な工程を経なくても発酵が進みます。一方でビールは原料となる大麦を発芽させた麦芽の酵素の働きで糖化させ、これに酵母を加えることでアルコール発酵させます。糖化と発酵を個別に行うため、単行複発酵と呼ばれます。
これに対して日本酒は、ワインと同様に原料の米にはデンプンが含まれていますが糖分が含まれていないため、ビールの原料となる大麦と同様に発酵させて糖化する必要があります。しかし、大麦のように原料自身がもっている酵素を用いるのではなく、麹菌を増殖させ、その酵素によってデンプンを糖化させます。ビールでは糖化と発酵をそれぞれ別のタンクでおこないますが、日本酒の場合は1つのタンクのなかで糖化と発酵が同時に進む点が大きく異なり、並行複発酵と呼ばれる醸造技術を用います。この方法をとる醸造酒は世界でも数少ないといわれます。
日本酒造りの流れ
日本酒造りは「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」といわれます。 酒造りの重要な手順はまず麹造り、次に酛(酒母)づくり、そして醪を仕込む「造り」ということです。基本的な工程は以下です。
①精米:米の表面のタンパク質や脂質を取り除く
②洗米・浸漬:米についている不要な糠を落とし、米に水を吸わせる
③蒸米:米を蒸して麹菌の繁殖をしやすくしたり、醪の中で溶けやすくする
④麹造り:蒸米に種麹を振りかけ、麹菌を繁殖させる
⑤酛造り:麹と蒸米と水、酵母をいれて酒母(酛)を造る
⑥醪づくり(仕込み):酒母に麹、蒸米、水を加えて醪を造り、発酵させる
⑦搾り:ほどよく発酵した状態の醪を搾って酒を取り出す
⑧ろ過・火入れ:搾った酒をろ過し、酵母と酵素の活性を止めるため、加熱する。
⑨貯蔵・瓶詰:貯蔵し熟成させ、味を整える。
①精米
雑味の原因となる玄米の外側の糠(ぬか)部分を削る作業です。このときどれくらい削っているかを表す数値のことを精米歩合と呼びます。私たちが普段食べている白米は、精米歩合90%程度ですが、酒造りに使われる米はそれよりもさらに深く削ります。
米の表面はタンパク質やビタミン、脂質などの成分を多く含み、これらは酵母の栄養となって発酵を促進したり酒の旨みのもとになりますが、多すぎると雑味のもととなってしまうためです。精米歩合と間違いやすい表現に精白率という表現があります。
精米歩合が残った部分の割合を示すのに対し、精白率は削り取った部分の割合を表します。
つまり、精米歩合が60%と精白率40%は同じ意味を表します。

精米歩合によって日本酒の味わいや香りが大きく変わる
・精米歩合70%以下・・・本醸造酒
・精米歩合60%以下・・・吟醸酒
・精米歩合50%以下・・・大吟醸酒
米は最表層部になるほどタンパク質や脂質が多いため、精米歩合の高い米(低精白米)で作った酒は、旨みの多い濃醇な味わいに、精米歩合の低い米(高精白米)で作った酒は淡麗ですっきりした味わいになるといわれます。精米直後の米は、最長1ヶ月間程度袋に詰めた状態で保管されます。精米時、摩擦熱などで水分が飛んでしまった米に一定期間吸湿させて水分含有量を整えるためで、浸漬の際に急速に水を吸うのを防いだり、水につけたときに米が割れにくくなります。
この工程を「枯らし」といい、日本酒造りの重要な工程の一つです。
②洗米・浸漬
枯らし後、残った糠などを洗い流すために米を洗い(洗米)、一定時間水に浸けて吸水させます(浸漬)。この工程で、米にどれくらい吸水させるのかが重要です。
吸水率は米の品種や精米歩合によって異なり、精米歩合が低い米ほど精米中の水分蒸発量が多くなるため、水を吸いやすくなります。米の状態や目標とする吸水率に応じて、秒単位での調整が行われます。
③蒸米
蒸し米は製麹・酒母造り・醪仕込みという酒造りの3本柱すべてに使用されるため、その出来によって酒の品質の良し悪しが大きく左右されてしまいます。前工程の洗米・浸漬作業と同様に酒造りの主要な工程の一つです。私たちが食べる米は「炊く」のが一般的ですが、日本酒の場合には吸水させた米を甑(こしき)という大型せいろと釜で「蒸す」という作業を行います。職人は、蒸し米を手に取り、粘り気や水分の状態を確認しながら時間や温度を調整しています。
炊くのではなく蒸すのには、次のような理由があります。
1、米のデンプン質を適度にα化(糊化)して、糖化しやすい状態にする
2、米を完全に殺菌するための加熱処理
3、蒸し米の理想である「外硬内軟」の状態にするため
「α化」と「外硬内軟」α化とは、米のデンプンがやわらかく粘り気のある状態になることです。
米を原料にアルコールを作り出すためにはまず、麹の酵素によって米を糖化させなければいけません。α化した米は酵素が中まで浸透しやすいため糖化が速くなり、酒母や醪の仕込みがスムーズに行えるのです。
ほどよくα化した蒸し米を作るためには、高温の強い蒸気で米を一気に蒸しあげることが必要です。通常米を蒸しあげるまでには、40分~1時間かかり、蒸し終わった米は麹用・酒母用・醪用に分け、それぞれ適温まで冷ましてから使用します。
最近ではベルトコンベア方式で蒸しから冷ましまでを行う全自動蒸し器が使用されることもありますが、手作業で蒸した方が良い仕上がりになると、昔ながらの甑を使う手法を守る蔵も多くあります。特に、吟醸酒などの高級酒用の蒸し米だけは手作業という場合も多いようです。また、蒸し米の理想は「外硬内軟」。外はさらさらで硬く、米同士がパラパラとしてくっつかないようにし、中心部は柔らかく水分が保たれている状態になっているものが良い蒸し米といわれます。麹を作る際、内側に水分があり柔らかければ、麹菌が菌糸を米の内部までしっかりと伸ばすことができます。さらに、外側が適度に乾燥し米同士がばらけていれば、麹菌が各粒均等に繁殖しやすくなります。
そのためには、①時間をかけて原型のまま精米すること
②吸水率をしっかりと合わせること
③乾燥した高温の強い蒸気で均等に蒸すことが重要
④麹造り
麹(こうじ)とは黄麹菌の胞子を蒸し米に繁殖させたものです。アルコールは酵母が糖を食べることによって生成されますが、デンプンが多く糖類を含まない米は、そのままではアルコール発酵ができません。デンプン質はブドウ糖が固く連鎖した分子構造を取っていますが、麹はこれを分解(糖化)させるための多量の酵素を生成します。
また、麹はデンプン分解酵素だけではなく、タンパク質分解酵素も作り出し、米に含まれるタンパク質を旨みやコクのもとになるアミノ酸に分解します。その他にも様々な酵素が含まれ、酵母の栄養分になったり、香気成分を生成したりといった役割を果たし、出来上がった酒の風味を豊かにします。「一麹、二酛、三造り」という言葉は工程順だけでなく、麹づくりが日本酒造りの土台であることを表しています。麹の出来具合によって、酛(酒母)や作り(醪)の出来が決まり、酒の品質が決まるからです。ではその麹はどのように造られるのでしょうか?ここからは、昔ながらの蓋麹法という方法について学習していきます。
蓋麹法
1、引き込み
蒸し米が30~35℃ぐらいまで冷えたら、麹室(こうじむろ)に運びます。この作業を引き込みといいます。麹室とは麹造り専用の部屋のことで、麹菌が繁殖しやすい温度30℃、湿度60%ぐらいに保たれ、温度・湿度を調整できる構造を持ちます。
2、床もみ・もみ上げ
蒸し米を麹室に運び入れ、種麹をふりかけてよく混ぜます(=床もみ)。種麹は黄麹菌の胞子で「もやし」とも呼ばれます。
種麹を混ぜ込んだら、ひとまとめにして積み上げ(=もみ上げ)、布をかけて保温し、そのまましばらく置きます。
3、切り返し
10~14時間程すると、蒸し米が固まりになります。米の温度を一定にするために、これをいったんばらばらにする作業を切り返しといいます。
切り返しのあとは、木枠に蒸し米を入れ、再び布で覆って保温します。
4、盛り
丸一日たち、固まりになった米を再度切り返しします。
この時点で麹菌がかなり繁殖しているので、麹蓋とよばれる小さな木の箱に小分けにします。この作業を盛りといいます。
5、手入れ・積み替え
麹蓋に盛られた麹は発熱するので、麹をかき回して米を広げたり(=手入れ)、麹菌の場所を適宜入れ替えて(=積み替え)温度と菌糸の育ちを均一にする作業を行います。
6、出麹・枯らし
約50時間して、栗のような香ばしい香りがしてきたら、麹室から麹を出し(=出麹)、暗く乾燥したところで20時間程度寝かせます(=枯らし)。
引き込みから枯らしまでは、丸3日ほどかかり、その間数時間おきに絶えず作業が続けられます。
「はぜ」が麹造りの鍵
麹米が繁殖した米の、白く見える部分のことを「はぜ」といいます。
米の中心部に菌糸が入った状態を「はぜ込み」といい、これによって麹の品質が評価されます。
はぜ込みが良いとされる麹は「総はぜ」と「突きはぜ」です。
米の表面全体を覆うように菌が繁殖した総はぜに対し、突きはぜは、表面はまばらな状態ながら、中までしっかり菌糸が食い込んでいる状態のものを指します。総はぜの麹は酵素の量が多いので糖化力が強く、発酵が良く進んだ濃醇タイプの酒になります。
一方、突きはぜの麹は、米の溶け方がゆっくりになるため、時間をかけて発酵させる酒に向いています。突きはぜの麹で醸造した米は、淡麗で上品な味になるので、吟醸酒などの高級酒に利用。
⑤酛造り
麹造りの次に重要と考えられているのは「二酛」、つまり酒母造りです。 日本酒のアルコール発酵は、酵母が糖を食べることによって起こりますが、一度に大量の米を発酵させるためには、酵母も大量に必要となります。酒母(または酛という)とは、スムーズに発酵を行うために必要な酵母を純粋培養した、発酵スターターのようなものであり、蒸し米、麹、仕込み水を混ぜたタンクに酵母を加え、酵母を増殖させて造ります。この時、自然に存在する酵母(野生酵母)や微生物、雑菌が入って酒の質が悪くなってしまうのを防ぐために必要なのが乳酸です。 酵母は他の雑菌がいるところでは負けてしまいますが、雑菌と違って酸性に強いという特徴を持っています。乳酸によってタンク内を酸性にすることで雑菌を駆逐し、酵母だけを純粋に培養することが可能となります。
速醸系酒母と生酛系酒母
酒母は大きく速醸系と生酛系に分けられます。
速醸系酒母(速醸酛)は、市販されている醸造用の乳酸を最初からタンクに添加して、酵母を投入する簡易的な方法です。一方、生酛系酒母は乳酸を一から育て、そこから乳酸を得、酵母を投入する方法を取ります。
生酛系は酒母が完成するまでに30日近くかかるのに対し、速醸系は15日前後まで短縮できるため、現在では速醸系酒母の方が主流になっています。生酛系酒母に含まれる酵母は、多くの微生物や雑菌に勝ち抜いてきただけに、旨みや香りが強い、濃醇な味になるといわれたり、安定した酒質となり2~3年間は十分に若さを保つといわれることから、今でも生酛系にこだわる蔵もあります。生酛系酒母はさらに2つに分類することができ、蒸し米を櫂(かい)ですりつぶす作業(=山卸し)を行わずにつくる酒母を「山廃酛」、従来通り山卸しを行った酒母を「生酛」と呼びます。
日本酒の香りは酵母によって決まる
日本酒は米を原料としているにも関わらず、りんごや梨などのフルーツや花の香りをもつ日本酒が存在します。
この香りは酵母が米のデンプンからできた糖を食べてアルコールを生成する過程で一緒に生成するエステルという成分によるものです。
生成されるエステルの種類は酵母によって異なるため、使用する酵母によって日本酒の香りが変化します。現在では日本醸造協会が酒造メーカーで使用され、優良とされた酵母および同時に開発した酵母を全国に頒布しています。
「協会系酵母」と呼ばれるもので、吟醸酒向きや純米酒向きなど様々な種類が存在します。また、全国の自治体も競うようにしてオリジナルの酵母の開発に取り組んでおり、新たな酵母が続々と誕生しています。
代表的な酵母の種類
■きょうかい6号
秋田の新政酒造由来の酵母。穏やかな香りと強い発酵力、淡麗な風味が特徴
■きょうかい7号
長野「真澄」ブランドの宮坂酒造由来の酵母。強い発酵力とオレンジのような華やかな香りが特徴
■きょうかい9号
「香露」を醸す熊本県酒造研究所由来の酵母。別名熊本酵母。華やかな吟醸香と程よい酸味が大吟醸酒づくりに向いているとされる
■きょうかい10号
東北6県の酒造場由来の酵母。香りが高く酸度が低く、純米酒と吟醸酒の両方に向く
■きょうかい14号
金沢国税局鑑定官室で育種。別名金沢酵母。酸が少なく、吟醸酒に向く
■きょうかい15号
秋田県の「AK-1酵母」を協会酵母として登録したもの。酸が少なく、上立ち香が高い
■静岡酵母
静岡県のオリジナル酵母。フルーティーできれいな酒質になる
■長野酵母
別名アルプス酵母。香り高く、吟醸酒造りによく用いられる。鑑評会を席巻し、話題に
■花酵母
東京農大が花から酵母を分離することに成功。ナデシコ・ツルバラなど花によって個性が違う酒になる
⑥醪づくり(仕込み)
麹と酒母を造り終えたら、いよいよ醪(もろみ)づくりです。
「三段仕込み」と呼ばれる手法で3回に分け、4日間かけて仕込みが行われ、日本酒造りの大きな特徴の一つです。3段階に分割して仕込むことで発酵がスムーズに進み、雑菌の繁殖も防ぐことができます。
1日目・・・添え仕込み
小さめのタンクに酒母と仕込み水、麹、蒸し米を入れて混ぜます。この混ぜる工程を「仕込み」と言います。
2日目・・・踊り
2日目は何も手を加えずに休ませ、酵母の増殖を十分に進ませます。
3日目・・・仲仕込み
発酵タンクに移し替え、添え仕込みで用いた蒸し米、麹、水を倍の量加えてさらに仕込みます。
4日目・・・留仕込み
仲仕込みで加えた倍の量をさらに加えて仕込み、完了です。
※上記を略して「添(そえ)・仲(なか)・留(とめ)」と言われます。
このように倍に、倍にと増やしていくため、全体量を把握して仕込みを行う必要があります。醪は留仕込みのあと、2週間から1ヶ月かけて発酵します。タンクの中では、麹によって米のデンプンが糖化され、酵母がその養分をえさにしてアルコール発酵を行います。 この、糖化と発酵が同時に行われる並行複発酵と呼ばれる方法は、世界でも珍しい発酵方法といわれます。
仕込み水で日本酒の味が変わる
昔から酒造を構える条件の1つは、酒造りに適した湧き水が近くにあるかどうかでした。灘や伏見が名醸地となりえたのは、豊富な仕込み水に恵まれていたことも大きな理由の一つです。灘の水は比較的硬度が高いので発酵が進みやすく、後味の引き締まった味になり、伏見の水は軟水で、発酵がおだやかでまろやかな味になるといわれます。原料となる米と同様に、仕込み水の水質は日本酒の味に大きな影響を与えます。一般的に酵母の栄養源となり、発酵を促す成分である、ミネラルを豊富に含んでいる水が適しているといわれますが、酒造りの技術が発達し、仕込み水のミネラルを調整することが可能になってきたため、近年では地域にかかわらず酒造りが可能になってきています。
⑦搾り
完成した醪の中には、溶け切らなかった米粒などが残っています。それらを取り除き、固形部分と液体部分に分ける作業が搾りです。醪を搾ることを上槽(じょうそう)といい、この作業を行った酒が酒税法上で日本酒(清酒)と定義されます。醪は発酵初期にはデンプンの糖化が進むために、泡が粘っこいですが、後半はアルコール濃度が上がるため、粘りを失い泡がすぐ消えるようになります。醪表面に泡がない状態が「しぼり」の目安です。
この間の醪の状態は日々刻々と変わり、天気や気温も毎年違う中で、計画通りの状態にして搾るために、杜氏は毎日醪の酒質検査を行い「しぼり」の日を見極めます。上槽の方法にはいくつかの方法があり、搾り方によって酒の風味が変化するため、商品に応じて搾り方を変えることもしばしばです。
袋吊り
もっとも高級酒向きの搾り方とされています。
醪を入れた袋を紐でぶら下げ、そこから自然と滴り落ちる液体を集める方法です。ほとんど圧力をかけないため、搾り終えるまでに時間がかかる上に、他の搾り方に比べて得られる量が少なくなってしまいますが、袋吊りによって搾った酒は華やかさと繊細さを兼ね備えた香味になるので、限定品のような高級酒には最適です。
槽搾り
古くから一般的に行われてきた搾り方です。
槽とは搾り機のことで、醪を詰めた袋を槽の中に敷き詰め、上から押し付けるように圧力をかけます。槽搾りでは徐々に圧力をかけていくため、搾り始めと搾り終わりの酒質に差が出ます。搾り始めに出てくる酒は、槽搾りの中では一番フレッシュな味わいで「あらばしり」と呼ばれます。
その後の酒は「中取り」、最後が「せめ」となり、味は徐々に濃くなっていきます。
機械搾り
近年は槽搾りに代わって、自動圧搾機と呼ばれる全自動の搾り機が普及しています。
アコーディオン状にセットされた布の中に醪を入れて搾ります。一気に搾り切ることができ、酒質が均一になることが特徴です。搾り方による酒質を見極める参考になるのが粕歩合です。粕歩合とは、仕込みで使った米の重量に対する搾り後に残った粕の重量の割合です。袋吊りのように圧力をかけずに搾った酒なら、粕歩合は高くなります。そして、粕歩合が高いものほどきれいな酒と言うことができます。
⑧滓引き・ろ過・火入れ/⑨貯蔵・瓶詰
搾り除去しきれなかった細かな不純物を取り除くのが滓引き(おりひき)・ろ過です。10日程酒を置き、細かな固形物を沈殿させ、上澄みの部分を取り出す工程を滓引きといいます。
その後、活性炭やフィルターによりろ過を行うのが一般的です。この状態ではまだ酵素や微生物が残っているため、貯蔵の時に酒質が変わってしまう可能性があります。そこで酵素の動きを止めるため、酒を60℃前後で30分程度、低温加熱処理を行います。これを火入れといい、火入れを行った酒はタンクに入った状態のまま、数か月間貯蔵されます。しぼりたての酒は角が立っていますが、貯蔵している間に熟成が進むと丸くなり、味がのってきます。こうして貯蔵し熟成された酒は、殺菌処理のために再度火入れされ、割水して瓶詰され完成します。
無濾過
活性炭ろ過を行っていない酒です。醪の香味や日本酒らしい旨みが残るといわれます。
生酒
ろ過を行ったあと、2回の火入れをしていない酒です。瓶のなかで酵素が生きていてフレッシュな味わいを楽しめます。生モノなので、冷蔵保存が鉄則。早めに飲む方が美味しく飲めます。
生貯蔵酒
貯蔵時と瓶詰め前、通常の2回行う火入れのうち、貯蔵時の火入れを行わずに生のまま貯蔵した酒です。瓶詰前の火入れのみ行っています。
生詰め酒
生貯蔵酒は1回目の火入れを行わないのに対し、生詰め酒は1回目の火入れのみをおこない、2回目の瓶詰め前の火入れを行わない酒です。
生貯蔵酒や生詰め酒も、生酒と同様に独特なフレッシュさが持ち味です。
酒造好適米とは
日本酒の原料は米であり、米の良し悪しが酒の品質を大きく左右します。
酒造りに適した米(=酒造好適米)には下記のような特徴があります。硬く大粒で、心白の比率が高いこと
雑味のもとになるタンパク質や糠が少なく、デンプン質の比率が高いこと。心白とは、米の中心部にあるデンプン質の粗い部分のことを指します。
食用米に比べて細胞組織に隙間があるため、
(1)麹菌が繁殖しやすい
(2)吸水率が良い
(3)酒母や醪の中で溶けやすい
などの良い日本酒ができやすい条件を兼ね備えているといえます。
かつて鑑評会に出品される酒の多くは山田錦を使用したものでしたが、山田錦の産地に限りがある(兵庫・徳島産が高品質といわれる)ため、最近では地元産の米を使用した日本酒造りも盛んになってきました。東京・鹿児島・沖縄を除く全国で酒米が生産されていて、26年度時点で102種あります。収穫量のベスト10は、多いものから山田錦・五百万石・美山錦・雄町・出羽燦々・ひとごこち・秋田酒こまち・吟風・八反錦1号・越淡麗となっています。
銘柄酒米の特徴
米の品種ごとに出来上がったお酒の特徴は、造りの違いによっても変わるため、一概には言えませんが、代表的な酒米の特徴や来歴は次の通りです。
山田錦
良い酛を造るための米として生まれ、発酵が順調に最後までゆっくり進む「突きはぜ」の麹ができる資質を持っているため、種麹の量が少なくて済み、「安心して酒造りができる」として誕生から70年以上にわたり、最高の酒米とされています。味や香りがふくよかで広がりのある酒質になるといわれます。
山田錦は播州山田錦とも呼ばれ、1923年に兵庫県の農事試験場で母に「山田穂」、父に雄町の血統を継ぐ「短稈渡船」を父として人工交配した品種です。
雄町
米がやわらかで溶けやすく、味にふくらみのある濃醇な味の酒になります。100年以上も前に生まれ、現在も残るただ一種の混血のない米で、五百万石をはじめ現在栽培されている酒米の多くがその子孫です。
五百万石
早生でお酒の造りやすさに定評のある酒米です。クセのないすっきりとした味わいの酒になるとされ、機械製麴に適している点が特徴です。新潟県が発祥で昭和50年代には、酒米シェアの50%を占める人気銘柄になりました。山田錦と人気を二分し、東北南部から九州北部まで幅広い地域で栽培されています。
美山錦
東北・関東・中部などで栽培されており、秋田や長野では吟醸酒によく利用されます。長野県の美しい自然の中で生産され、美しい山の頂の雪のような心白にちなんで名づけられました。冷涼な他県のための新しい品種を生み出す親株となっており、子孫に出羽燦々、越の雫、秋の精、神の舞などがあります。
出羽燦々
美山錦の倒伏のしやすさを改良し、耐冷性、玄米品質、千粒重のすべてが美山錦を上回る品種です。吸水性が高く、酒造適性にも優れていて、淡麗できれいな酒ができるとの定評があります。山形県の農業試験場で1995年に開発されました。
日本酒の旬
冷蔵設備を備え、1年じゅう日本酒を造る四季醸造の蔵もありますが、日本酒造りは、一般的には、10月から3月の寒い時期に本番を迎えます。
それに合わせて出荷される日本酒の種類も変わってきます。ここでは月ごとに日本酒造りの流れや出荷される日本酒の種類についてみていきます。

10月:
酒造りスタート。
11月末~12月:
年内に収穫したお米を基に作り、この時期に出荷される酒を「新酒」と呼びます。「しぼりたて」「初しぼり」などと記載される場合もあり、特有の新鮮な香りと爽やかな苦味、キレのよい飲み口が特徴です。
12月~3月: この酒造りの時期には、フレッシュな酒が色々と楽しめます。 醪を搾るときに最初の方に出てくる酒を「あらばしり」といいますが、これを楽しめるのもこの時期ならではです。新酒と同じくキレのある飲み口で、特有の華やかな香りが特徴です。
3月~5月: この時期の限定品として薄くにごった日本酒も多く出荷されます。醪を粗い布でこした状態で商品化されるものを「にごり酒」「うすにごり酒」「滓がらみ」などと呼びます。瓶の中でまだ酵素が生きていて、口に含むと弾ける微炭酸を含むものもあり、近年ではこのタイプが人気です。
6月~8月: 酒造りが終わり、この時期にかけて出荷されるのが夏酒、冷やして飲んでおいしい酒です。フレッシュ感が求められることもあり、火入れの工程を省略した「生酒」「生貯蔵酒」「生詰酒」などが多く出回ります。 夏には凍らせた日本酒である「凍結酒」も出回ります。多くは、火入れを行わない生酒を凍らせ、ちょっと溶けてきたみぞれ状のものを楽しみます。凍結酒には、劣化が起きにくいというメリットもあります。
9月: 日本酒は冬から春にかけて造られ、その後9月くらいまでの間、蔵の中で貯蔵されます。熟成によって味がまろやかになり、円熟した味わいを楽しむことができます。こうした、貯蔵済みの秋の訪れとともに出荷する日本酒を「ひやおろし」や「秋あがり」と呼びます。
季節の行事とともに日本酒を楽しむ
日本には季節行事があり、行事に合わせて服装や食べ物をセレクトし、季節の変化を尊ぶ文化がありますが、日本酒にも節句やハレの日に合わせたものがあります。
1月
新年を祝って「祝い酒」を楽しみ、「お屠蘇(おとそ)」を飲んで1年の健康を祈願します。2月
「雪見酒」をいう降り積もった雪を眺めながら日本酒をたしなみます。
3月
桃の節句。昔は桃の花びらを浮かべた「桃花酒(とうかしゅ)」を飲む習慣がありましたが、江戸時代以降はもち米やみりんなどを材料としてつくられた濃厚で甘味の強い「白酒」に変わりました。4月
桜の咲くころには「花見酒」が飲まれました。農村では桜の木を田んぼの神様が宿るとして、日本酒を供え、その年の五穀豊穣を祈願していました。これが、現在の「花見」の由来だといわれます。5月
端午の節句に合わせて飲むのが「菖蒲酒」です。文字通り菖蒲の葉や根を浸したもので、あやめ酒ともいわれます。9月
9日の重陽の節句には、邪気を払い、不老長寿の効果があるとされた「菊酒(菊の花を浮かべたもの)」を飲む習慣が平安時代からありました。10月
中秋の名月を眺めながら日本酒を酌み交わす「月見酒」は今でもしばしば行われてるなじみの深い行事です。日本では平安時代から、月を愛でながら酒を楽しみ和歌を詠むという習慣があったといわれます。日本酒は、季節行事に欠かせないものであり、昔から日本人の生活の中で親しまれてきたのです。
ラベルには味のヒントが隠れている
日本酒の瓶に貼られているラベルはその酒の味を知るための重要な手がかりとなります。
ラベルには、酒類業組合法で記載を義務付けられた項目のほかに、その酒の造りや味わいに関する様々な情報が書かれています。酒類業組合法で定められた記載必項目
①特定名称の表示
②アルコール分(日本酒度)
③原材料名
④製造地の住所と名称
⑤容量
⑥清酒(「日本酒」と表示してもよいことになっています)
⑦製造年月日任意の記載事項として書かれることが多い項目
・原材料の品種(使用米)
・精米歩合
・産地名
・貯蔵年数
・日本酒度
・酸度
・アミノ酸度
・使用酵母
・おすすめの飲み方など
なかでも日本酒の味を推測するときによく使用する項目は、「特定名称」「日本酒度」「酸度」「アミノ酸度」です。これらの要素について一つづつ見ていきます。
特定名称
特定名称は、使用原料や精米歩合などの条件による酒の分類です。
<純米系>
米と麹と水だけで造られた日本酒は「純米系」に分類されます。
純米酒:
精米歩合の規定がない純米酒は、米の個性を生かすために80~90%の超低精米で作る商品もある。コクのある味わいのものが多いが、新潟県産や北海道産のように軽快な味わいの場合もある。
純米吟醸:
精米歩合60%以下の酒。バランスが良く、ふくよかな米の旨みを感じられる優しい味が特徴。
純米大吟醸:
精米歩合50%以下の酒。すっきりした味わいとしっかりした芯を併せ持った最高スペックの酒とされる。フルーティーな香りと上品な味わいが特徴。
<本醸造系> 米と麹、水に加えて醸造アルコールが添加されている日本酒は「本醸造系」に分類されます。アルコールを添加すると、醪のアルコール度数が高くなり、管理がしやすくなるので酒質も安定します。
本醸造酒:
精米歩合70%以下の酒。スパッと抜群のキレが特徴で、様々な料理にも合わせやすい。冷酒でもお燗にしても楽しめる。淡麗辛口になるものが多いとされる。
吟醸酒:
精米歩合60%以下の酒。香りとふくよかな味わいを併せ持つ。醸造アルコールにより、余韻が短いのが特徴。
大吟醸酒:
精米歩合が50%以下の酒。雑味の原因となるタンパク質がそぎ落とされ、純米大吟醸酒よりもさらにフルーティなものが多い。
特別純米酒・特別本醸造酒:
純米系、本醸造系の中で、精米歩合が60%以下または特別な製造方法で造られた酒は「特別」と名前を付けることができる。この場合はどのような製法なのかを記載することが必要。
特定名称の条件にはほかにも、「糖類などを使用していないこと」、「麹米の使用割合が15%以上であること」、「3等以上に格付けされた玄米を使用していることなどの条件があり、これらすべてを満たさない場合は普通酒に分類されます。日本酒市場の70%のシェアがあり、隠れた名酒もたくさんあります。
日本酒度
甘辛の度合いを+-と数字で表します。辛口が+。甘口が-。
+5以上は辛口、-5以上は甘口とされます。
酸度
乳酸、コハク酸、リンゴ酸などの酸の含有量を%で表示します。
通常は1.3~1.5%です。酸度が高いと辛口の傾向が強く、酸度が低いと淡麗甘口に感じます。
アミノ酸度
日本酒に含まれるアミノ酸の量を表します。アミノ酸度が高い酒は旨みとコクのある味になり、酸度が低いと軽い味わいになります。
このように日本酒の味は様々な要素が絡み合って決まるため、一概にラベルの表示だけで甘口・辛口を完全に区別することはできませんが、その点も日本酒の魅力の一つといえます。
様々な日本酒の名前

あらばしり
搾りの最初に取れる部分。華やかな香りと少し荒っぽさを残すフレッシュ感が味わえる
中汲み・中取り
醪を搾る際、あらばしりの次に抽出した部分の酒。バランスの良い香味とされる
滓がらみ
搾りの後に残る沈殿物である「滓」を取り除いていないもの。米の旨み成分の多い味わいが特徴
無ろ過
滓引き後に残った滓などを除去するためのろ過を行わない日本酒。ろ過したものよりも、香味の要素が多いため、山吹色の色調が特徴となる。
生一本(きいっぽん)
一つの製造場だけで醸造した純米酒。
江戸時代初期に粗悪な酒が出回るのを防ぐ目的で生まれた名称
木桶仕込み
醪の発酵をタンクではなく、昔ながらの木桶で行ったもの
生酛
酒母を造る際、自然界から乳酸菌を取り込んで作る手法で仕込んだ酒。濃厚な旨みと酸があり、本格的な味わいになる
山廃
生酛で造られた酒のうち、酒母を造る際、蒸し米と麹、水をすりつぶす「山卸し」を省略して仕込んだ酒
速醸酛
酒母を造る際に醸造乳酸を加えたもの。淡麗な酒質になりやすい
金賞受賞酒
酒類総合研究所が主催する「全国新酒鑑評会」において金賞を受賞した酒
原酒
加水調整を行っていない酒。アルコール度数が18~20度と高く、粘性の高いものが多い
古酒
「長期熟成酒」とも呼ばれる。搾り後から出荷まで数年経っている酒。寝かせることで味が熟成して美味しくなる
ひやおろし・秋あがり
春先に出来上がった日本酒を半年ほど熟成させ出荷する酒。熟成により飲み口がまろやかに変化しているのが特徴
しぼりたて(新酒)
出来たばかりの日本酒。若々しくピリリとした心地よい刺激のあるものが多い
樽酒
木製の樽で貯蔵された酒。杉の木樽が最高とされ、爽やかな香りが特徴。
斗瓶囲い
搾りの際、醪を詰めた袋を吊り下げ、そこから滴り落ちた液だけを斗瓶という容器に集め貯蔵したもの。「袋吊り」「雫酒」と同じ意味で使われる場合も
槽しぼり
「槽」と呼ばれる伝統的な搾り機で搾った酒。機械搾りよりも時間はかかるが、高品質の酒になるとされる
生酒
火入れを行わない日本酒。特有のフレッシュ感や軽快さが特徴。「本生」や「生生」と表示されることもある
生貯蔵酒
貯蔵時の火入れは行わず、瓶詰め前の火入れだけを行ったもの。生酒の風味を残したものが多い
生詰め酒
生貯蔵酒とは逆に、貯蔵前の火入れのみを行ったもの。ひやおろしに良く用いられる手法
にごり酒
醪を目の粗い布でこしただけのもの。白くにごっているのが特徴で、醪の濃厚な香りや味わいが楽しめる。女性からも人気の高いタイプ
香りと味わいによるタイプ分類
同じ吟醸酒でも味わいや香りがまったく異なるため、純米酒だから吟醸酒だから「味わいはこう」と一概に断言できない点が日本酒の難しいところです。 辛口・甘口・旨口など味を表す言葉の多くはあいまいなものが多いため、日本酒の味を正確に理解するための目安として日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)が4つのタイプでの分類を考案しました。 このタイプ分類の大きな特徴は、味わいだけでなく香りを分類の要素として加えている点です。 味も香りも強いものが「熟酒」、味が強く香りは控え目なものを「醇酒」、香りが強く味が控え目なものを「薫酒」、香りも味も控え目なものを「爽酒」と分類します。 単に分けるだけでなく、それぞれのタイプに合わせやすい料理や適温、適した酒器を示していることもこの分類方法の大きなポイントです。
熟酒ー熟成した複雑な旨味の存在感ー

<代表的なタイプ>
古酒や秘蔵酒
<色>
黄金色に輝く色合い
<香り>
干した果物やスパイス、焼き栗やクルミなどのナッツやキノコ、はちみつやチョコレートなどの香りが豊かで、強い旨みを予想させる。
<味わい>
3年以上の長期熟成酒特有の重厚で豊潤な味わいがある。練られた旨みと甘味、とろみを感じる。スパイスやナッツの香ばしさが熟成した複雑な旨味とともに口の中に広がり、香りをともなう風味の余韻が非常に長い。
醇酒ー日本酒の原点。米の旨みが生きた王道酒ー
<代表的なタイプ>
純米酒。生酛や山廃系の日本酒が典型
<色>
淡く黄色がかっている
<香り>
ごはんの湯気や大豆、そばや餅、ビスケットなどの原料の米麹由来のふくよかで落ち着いた香り。
<味わい>
充実した旨みと、ほどよいミネラル味などの深みのある味わいが特徴。とろりとした食感で後味に力強さがあり、旨味の余韻が長く続く。温度の違いによってさまざまな変化をし、燗にすると旨味の複雑さとキレの良さが楽しめる。
薫酒ー華やかな果実・花・ハーブの香りが広がるー
<代表的なタイプ>
大吟醸酒、吟醸酒。精米歩合が高く、吟醸酵母を使用したタイプのものが多い
<香り>
無色から淡い色調
<香り>
リンゴや洋ナシ、バナナやイチゴなどの甘い果実や梅やライラックの花などの華やかで透明感のある香り、ハーブや柑橘系の香りを併せ持つ。
<味わい>
ほのかな甘味ととろみを感じるが爽快で澄んだきれいな味わいが特徴。華やかな含み香があるが、旨味成分が少ないので、余韻が短く、切れ味の良い印象になる
爽酒ーフレッシュ感あふれるシンプルテイストー
<代表的なタイプ>
生酒や生貯蔵酒、本醸造酒、吟醸酒。低アルコールの酒の中にこのタイプに当てはまるものが多い
<色>
無色から淡い色調
<香り>
水梨、ブドウ、レモン、ライム、青りんご、大根、松の葉など控え目でフレッシュ感がある香り
<味わい>
さらりとした口当たりで、アルコール感がなめらかで優しい甘味とフレッシュな酸味がある。酸味や苦み成分が少ないため、強く冷やしても清涼感を保つ。旨味が少なくシャープな後口になる。
日本酒と料理のペアリング
日本酒と料理との相性には、次のような基本的特徴があります。 ・魚介類の生臭さをカバーする ・醤油や味噌、鰹節、昆布などアミノ酸のうま味を生かした料理と良く合う ・飲む温度帯が広く、刺身や酢の物から鍋物まで料理の温度を選ばない ・塩分の多い少ない、味付けの濃い薄い、など幅広い味付けの料理に対応できる ・酢を使った料理との相性も悪くない ・柚子、カボス、スダチなどの柑橘類の酸や香りとの相性も良い ・照り焼きや甘露煮のような甘みのある料理にも合う ・わさび、唐辛子、サンショウ、ショウガなど和風の香辛料と良く合う ・シソ、ミョウガ、ネギ、三つ葉などの香りとも良く合う
<和食との合わせ方>
味・濃淡、温度などの要素が反発しない、似たもの同士を組み合わせることが基本。甘い料理には甘口の日本酒、同じ豆腐でも湯豆腐なら熱燗が、冷奴には冷酒があります。焼き鳥もタレで食べるなら甘口、塩で食べるなら辛口の日本酒ということになります。
<洋食や中華との合わせ方>
日本酒は辛口の白ワインに良く似た香味があるため、フランス料理の魚や鶏肉などの白身の料理にも合います。
中華料理であれば蒸し料理や、醤油味のものに日本酒が合います。とろみがついている料理や香辛料が多い濃厚な味付けの料理の場合には淡麗タイプの辛口の酒を合わせると口の中がさっぱりし、前後の料理の味が喧嘩しません。杉の香りがする樽酒を冷やしていただくのもおススメです。
洋風の食材では、ステーキのソースに醤油をちょっと垂らすなど隠し味に醤油や和風の香辛料を使うことで、より日本酒との相性は良くなります。
上記の特徴を踏まえた上で、4つのタイプ別にどんな料理が合うのかを見ていきましょう。
熟酒
練れた香りと豊潤な味わいを持つ熟酒タイプは、個性がはっきりとしているため、料理を選ぶ傾向がありますが、他の4タイプの酒では対応が難しい、野生生物やコラーゲンをもつ魚介、味付けの濃い料理にも調和します。油脂の多い料理や香ばしい風味の料理、スパイスのきいた料理との相性が良いとされます。

<和食ならコレ>
・豚の角煮
・ウナギの蒲焼き
・味噌煮込みおでん
・すき焼き など
<洋食ならコレ>
・ビーフシチュー
・鴨のロースト
・フォアグラのソテー
・ミートソーススパゲティ など
<中華ならコレ>
・シュウマイ
・北京ダック
・チンジャオロース
・ふかひれの姿煮 など
醇酒
ふくよかな香りとコクのある旨味と味わいを持つ醇酒タイプは、4タイプのなかで最も料理との相性が多彩です。発酵食品などの食材に対応することができ、クリームやバターなどの乳製品との相性も良いとされます。旨味が強い食材や香ばしく焼いた料理とよく調和します。

<和食ならコレ>
・タレの焼き鳥
・肉じゃが
・サバの味噌煮
・おでん など
<洋食ならコレ>
・ハンバーグ
・クリームシチュー
・フライドチキン
・グラタン など
<中華ならコレ>
・焼き餃子
・エビのチリソース炒め
・酢豚
・焼き豚 など
薫酒
華やかな香りと爽やかな味わいを持つ薫酒タイプは食前酒に向きますが、はっきりした香りがあるため料理を選ぶ傾向があります。甘味のある魚介類や繊細な食材に比較的相性が良いとされ、素材の味わいを生かした料理や、酢やハーブ、柑橘類を風味づけに使った料理と調和します。

<和食ならコレ>
・あさりの酒蒸し
・アナゴの白焼き
・山菜のおひたし
・生ガキのレモン添え など
<洋食ならコレ>
・ラタトゥイユ
・シーフードサラダ
・サーモンマリネとハーブのサラダ
・白身魚のムース など
<中華ならコレ>
・棒棒鶏
・酢の物
・生春巻き
・春雨サラダ など
爽酒
爽やかな香りと軽快な味わいをもつ爽酒タイプは、合わせられる料理の幅が広い。白身魚などのあっさりとした旨味をもつ食材を中心とした料理や、だしを使った料理、豆腐などのさっぱりした食材や蒸しものなどにも適しています。

<和食ならコレ>
・そば
・寿司
・白身魚の刺身
・茶碗蒸し など
<洋食ならコレ>
・ロールキャベツ
・プレーンオムレツ
・スモークサーモン
・バジリコ風味のスパゲティ など
<中華ならコレ>
・かに玉
・エビやカニのシュウマイ
・イカの炒め物
・小籠包 など
カテゴリー: 第四章 料理と楽しむ
温度を変えて味わう
日本酒の味や香りは、温度を変えることでがらりと変化し、別の酒のようになります。
日本酒を冷やして飲むものを「冷酒」、温めて飲むものを「燗酒」と呼びます。このように温めても冷やしても美味しく飲める酒は珍しく、世界でも稀な存在です。基本的には、温度を高くすると甘味と旨味が増しまろやかに、温度を低くするとすっきりとキレのある味わいになります。一般的に純米酒や本醸造酒は燗酒に向くといわれます。純米酒などに豊富に含まれるコハク酸やアミノ酸などのうま味成分は、温めるとよりおいしく感じられるためです。
また、舌は温かいものを含むと甘みをより強く感じる性質があるため、もともと糖分の少ない辛口の酒は温めることで甘みやうま味が引き出され、よりおいしくいただけます。
舌が感じる味は「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「うま味」の5つといわれます。
甘味は低温ではあまり感じませんが、体温付近でもっとも強く、それ以上ではやや弱くなりますが、うま味も感じるといわれます。
酸味は酸の種類によって感じ方が異なり、リンゴ酸が多いと冷やしたほうが爽やかで温めると味がぼけてしまいます。一方で乳酸が多いお酒は冷やすととがった味になりますが、温めるとマイルドになってうま味に変わります。
塩味は温度が下がれば強く、上がればやわらかく感じます。苦味は体温を超えたあたりから急激に感じなくなります。
温度によって、どの味を強く感じるのかが異なるため、同じお酒でもその温度によって印象が異なるのです。お燗の温度が5℃違うだけで味の印象は変わり、20~40℃で一番敏感になります。
一般的には香りの高い吟醸酒は冷やして、旨口の純米酒は燗にして飲むと美味しいといわれますが、これは絶対ではなく、吟醸酒や大吟醸の中にも燗にすることで旨味が増し、まろやかな味わいになるものは意外に多く存在します。色々な温度を試してみて、自分に合う味わいを見つけることができるのも日本酒の魅力の一つです。
温度による呼び名の違い
日本酒は、5~15℃が冷酒、20~25℃が常温、30~55℃が燗酒に分類されますが、5℃ごとに細かく呼び名がつけられています。
5℃:雪冷え
10℃:花冷え
「雪冷え」「花冷え」は明らかに冷たさを感じる状態。
純米大吟醸酒や吟醸酒など、フルーティーなタイプの日本酒にはこの飲み方がオススメ。ワイングラスなどで飲むと、きれいな香りがたち、味を細部まで味わうことができる。
15℃:涼冷
20℃:常温
「涼冷え」は冷蔵庫から出してしばらく放置した状態。「常温」は冷蔵しない状態を指し、「冷や」とも呼ばれます。(※冷やとは冷酒のことを指すわけではないので注意が必要です。)
純米酒や本醸造酒、なかでも山廃・生酛などの旨みが強い酒は、味を柔らかくしてくれるこの温度帯向きの酒質が多い。陶器や磁器で飲むと美味しく味わうことができます。
30℃:日向燗
35℃:人肌燗
40℃:ぬる燗
30℃前後から日本酒に含まれている雑味成分が飛び、味が滑らかになってくるといわれ、お燗に適した純米酒などは40℃ぐらいから味や香りが膨らんできます、お猪口で飲むと美味しく味わうことができます。
45℃:上燗
50℃:熱燗
55℃以上:飛切燗
注いだときに湯気が立つ45℃以上の状態。純米酒は45℃前後から辛くなりやすいので、注意が必要。本醸造酒は耐熱性が強いので、味は崩れにくくインパクトが増します。こちらも同様にお猪口で味わうのがオススメです。
上記以外にも燗によって酒の状態を「燗映え」、燗をしてから冷めてしまった状態を「燗冷まし」、燗冷ましによって風味が損なわれた状態を「燗崩れ」と呼ぶなど、酒の温度に関する表現にた多彩なものが存在します。
美味しいお燗の方法
燗を付けるときに気を付ける最大のポイントは、78℃以下で行うことです。 水の沸点は100℃ですが、アルコールは78℃前後で揮発してしまうため、この温度を超えると香味成分でアルコールが飛んでしまい、酒の味が崩れてしまいます。燗は酒の風味を豊かにするだけでなく、飲むペースがゆっくりになりやすい、アルコールは温めた方が吸収が早くなるので飲みすぎ防止につながる、などの理由から体に優しい飲み方といえます。 ここでは、おいしい燗のつけ方についてみていきます。
湯煎
1、鍋に湯を沸かす
2、沸騰したら火を止め、湯の量の1割分の差し水をする。
※この時の湯の温度は80℃になるようにする
3、酒を入れた徳利を1分つけて引き上げる
4、30秒後に再び入れて好みの温度で取り出す
他にも、水からつける方法や沸騰した湯につける方法がありますが、水からつける場合には
①ある地点を過ぎると温度上昇が急激に起こるため、時間と温度設定のタイミングが難しい
②数百種類の香り成分はそれぞれ揮発する温度が異なるため、温まっていくあいだに香り成分が次々と抜けてしまうなどの特徴があり、一方で沸騰した湯につけるとアルコールが酒から激しく揮発して、非常に辛口の酒になってしまうので、上記の手順で80℃の湯につける方法が最もおいしく風味がまろやかな熱燗になります。
蒸し燗
1、蒸し器やせいろに徳利を入れ、蓋をして蒸す
湿潤な湯気のなかで加熱するため、アルコールや香りが抜けにくいメリットがありますが、78℃以上の熱が加わるので、やや辛口の熱燗になります。
火を止めると保温することができるので、複数の徳利を温めるのに向いています。
電子レンジ燗
1、徳利にラップをかぶせ、電子レンジにかける
電子レンジのマイクロ波は電波のため、角ばった部分や細い部分に熱が集中する特性があること、急速な加熱が起こるので、徳利内の上下で加熱にムラができてしまうという特徴があります。そこで、首の部分が隠れるようにラップをかぶせたり、空の徳利に移し替えることで温度のムラをなくすと良いでしょう。
近年では、より手軽に燗を楽しめる酒燗器が多数発売されているので、こういったものを利用するのもオススメです。
美味しい冷やの方法
瓶や徳利を氷水につけて冷やす
柔らかく優しい感じを残しつつ、香りと味わいのピントが合った冷え方になり美味しく味わえます。冷蔵庫で冷やすと冷蔵庫内の空気とともに少しずつ冷えていくので少しぼやけた印象になり、一方、冷凍庫で急速に冷やすと瓶表層部の水分が氷点下になり、香りや味がアルコールに取り込まれる現象がおこるため、味わいや香りが閉じこもった印象になってしまうため、氷水につけて冷やす方法が一番おすすめです。

美味しいその他の飲み方
水割り
グラスに日本酒を注ぎ、好みのミネラルウォーターで割る飲み方です。日本酒:水=8:2の割合で割るのがオススメです。硬水は引き締まった味わいに、軟水はのびやかな味わいが楽しめ、原酒や生酛、山廃系のお酒に向きます。
湯割り
先にグラスに湯を入れた後に日本酒を注ぎます。水割りと同様、8:2の割合がオススメです。硬度の高いミネラルウォーターの湯で割ると魚介類に、軟水では野菜料理に向きます。
ハイボール
氷をたっぷり入れたグラスに日本酒を注ぎ、炭酸水で割ります。柚子やスダチ、カボスなどの柑橘類のスライスを入れることで、爽快感も味わえます。
みぞれ
冷凍温度まで冷やした日本酒を冷たいグラスに注ぐとみぞれ雪のように細かいシャーベット状に凍っていきます。専用の冷蔵庫があるバーなどで楽しむことができます
酒器を変えて味わう
温度と同じぐらい日本酒の味に影響を与えるのが酒器です。形状や材質の異なる酒器を用いると香りや味わいが大きく変わることがあります。それぞれの酒の特徴に応じて、相性のよい酒器を選ぶことが重要です。

酒器を選ぶ際の5つのポイント
1、酒をどう空気に触れさせるか
まず着目すべきは酒器の口の広さです。口が広いほど空気に触れる面積が大きくなります。酒は酸素に触れると香気成分が活性化して香りが広がりやすくなりますが、同時に酸化速度も早まります。酸化することで口当たりがまろやかになるので、口が広い酒器に注いだ酒は濃厚でまろやかな味わいになる傾向がありますが、一方で、酸化が進みずぎると味が崩れるというデメリットもあります。
2、日本酒の色調と器の材質や色との調和を考える
料理に見た目が重要であるのと同様に、日本酒にも目で味わう要素あり、酒器の材質は見た目にも大きく影響します。黄金色の酒を透明なグラスに注げば、輝きが増したり、にごり酒を色の暗い酒器に注げば、酒の白さとの対比が楽しめたりと、酒器の材質や色調は酒の価値を引き立たせてくれます。
また日本酒の味自体も器の材質によって大きく変化します。ガラス製の酒器は口当たりがなめらかで、酒の味がはっきり感じやすいのが特徴です。一方陶器製の器はどっしりとした重厚感があり、柔らかい飲み口になるのが特徴です。吟醸酒、大吟醸酒のような繊細でシャープな味わいの酒はガラスが、純米酒や山廃のような味の濃い酒は陶器が向いているといえます。
3、日本酒の香りを考える
器の形状は香りの強さと印象を変化させます。香りを閉じ込めるうりざね型や風船型、香りがすっきりと立つラッパ型や円筒形、香りがほとんど感じられない平皿型などがある。
香りの高いタイプの日本酒を飲むときには、うりざね型やラッパ型の酒器を用いるのが最適です。近年はしばしば吟醸酒をワインのように飲みますが、ワイングラスは揮発した香り成分が器の中に充満しやすく、香りと楽しむのに向いています。反対に香りの少ない日本酒はワイングラスに注いでもほとんど変化がないので平皿型を用いるのも良いでしょう。
4、飲用温度でサイズや素材を決める
冷酒は温度が上がらないうちに飲み切れる小ぶりのものや磁器、ガラスを選ぶのが良いでしょう。一方で、熱燗は保温性のある陶器が適しています。
5、開口部の形状に応じて、飲み手の口の形を変える
口の形は平皿型では「エ」、ラッパ型では「ウ」、うりざね型では「オ」になる。この口の形の違いが酒の印象を大きく変えるので、意識してみても面白いでしょう。
4つのタイプに合った酒器は?
熟酒
カットの入ったグラスや内側が金塗りの漆器などで黄金色の美しい色調を楽しみましょう。凝縮感のある香りを生かすなら小ぶりのブランデーグラスも良いです。
醇酒
もっとも日本酒らしい米の旨みが生きた醇酒は、燗にするなら和の器でもある焼き物などで楽しむのがオススメです。辛口の冷酒なら、シャープな陶器製も良いでしょう。
薫酒
最大のポイントは華やかな香りを生かすことです。口が広がったラッパ型の形状かワイングラスのように香りがわずかにこもるタイプが適しています。
爽酒
冷酒にして飲むことが多いので、小さめの盃で温度の上がりにくい素材を選びましょう。清涼感のある装飾で演出するとより一層楽しめそうです。
日本酒と健康
お酒の飲みすぎは二日酔いのほか、アルコール依存症や臓器障害など健康を損ねる原因となりますが、一方で適量の摂取は健康増進につながるといわれています。 厚生労働省による「21世紀における国民健康づくり運動」では「節度ある適度な飲酒」の量は、純アルコールに換算して1日約20グラムとされています。
この量は日本酒なら1~1.5合、ビールなら中瓶1.5~大瓶1本ほどにあたり、この適量を守って、お酒を飲んている人は、全く飲まない人や飲みすぎている人に比べて、心臓病やがん、糖尿病、肝硬変などを発症するリスクが低いことが医学的に証明されています。
ほかにも、適度な飲酒はストレス解消や食欲増進のほか、最近では骨粗鬆症の予防と改善効果や認知症・健忘症の予防効果があることなども医学的に証明されるようになってきました。

日本酒の効用
日本酒には、原料の米や麹菌・酵母から作り出された、糖質・アミノ酸・有機酸・ビタミン・ミネラルなど120種類以上の成分が含まれています。これらが独特の風味を醸し出すとともに様々な病気の予防や改善効果を生み出しているのです。
では、日本酒の効用について具体的に見ていきましょう。
①アミノ酸が豊富に含まれている
アミノ酸は、私たちの身体のタンパク質を構成したり、骨格筋を保持する役割があるほか、疲労回復や食欲増進にも役立ちます。日本酒にはこのアミノ酸がバランスよく豊富に含まれていて、近年では日本酒のみに含まれるアミノ酸や糖類が心臓病やがん、骨粗鬆症、老化、認知症などの発症リスクを低下させることも明らかになっています。
②発がん予防効果
1966年から16年間にわたり、国立がんセンター研究所が行った調査によれば、適量のお酒を飲む人のがん死亡率が低下するといことが明らかになっています。
また、日本酒を濃縮した試料をつくり、これらを膀胱がん、前立腺がん、子宮がんの細胞に加えるとがん細胞が死滅するという実験結果もあります。これらは日本酒に多く含まれる微量物質が、ヒトのがん細胞の増殖を抑制するためで、ウイスキーやブランデーでは、同じようながん抑制効果は得られません。
③善玉コレステロールを増やす
動脈硬化が進行すると、血管に血のかたまりができて、虚血性心疾患などの様々な病気をもたらします。この動脈硬化は血液中の脂肪の一種であるコレステロール値が多くなることによって促進されます。コレステロールには善玉と悪玉があり、バランスが崩れて悪玉が増えると動脈硬化が起こりやすくなってしまいます。
日本酒には、善玉コレステロールを増やす効果があります。その結果、悪玉コレステロールが増えるのが抑制され、動脈硬化を防ぎ、虚血性心疾患などの様々な病気のリスクを抑制します。
④ストレス解消作用
日本酒に限らず、アルコール全般に言える効果ですが、くつろいで適量のお酒を飲むことは、ストレスによって収縮した血管を拡張させ、血流循環を促します。
これによって、肩こりや筋肉の凝り、冷え性の改善などに役立ちます。
中でも日本酒は、すい臓に働いて消化酵素の分泌を促進させたり、ODDI(オッディ)という筋肉を弛緩させて胆汁排出を促進させたりします。
これにより消化や食欲増進を促してくれます。
⑤体を温める
お酒を飲むと代謝反応によって、熱が生成され体が温まるのですが、とくに日本酒に含まれるアミノ酸には保温効果があり、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒よりも長時間長続きします。
飲んで内側から体を温めることもできますが、お風呂にお酒を入れて外側から体を温めることも可能です。酒風呂は血圧の安定を促したり、日本酒に含まれる天然保湿性成分が美肌にも良いとされています。
美味しく健康にお酒を楽しむ
「醸造酒の日本酒は翌日まで残りやすい、一方で蒸留酒の焼酎は残りにくい」と言われることがあります。しかしアルコールの代謝のメカニズムは、お酒の種類にかかわらず同一です。つまり、同じアルコール度数で同じ量を飲んだ場合は、何を飲んでも酔い方に違いはないと言えます。
お酒の種類にかかわらず、飲みすぎれば二日酔いになるということです。焼酎は氷や水、お湯などで割って飲むことが多いのに対し、日本酒は割らずに飲まれることが多いため、同じ量を飲んだ場合には割らずに飲む日本酒の方が摂取するアルコール量が多くなり、「日本酒のほうが酔いやすい」といわれるのです。
お酒を飲める体質かどうかを知る
お酒に強い人のことを「ザル」と言うことがありますが、良い状態でお酒を飲める量には個人差があり、中には体質的に全くお酒を受け付けないという人もいます。まずは自分がお酒に強い体質なのか、弱い体質なのかを知ることが大切です。アルコールパッチテストというものを用いると手軽に自分はお酒に強いタイプなのか、弱いタイプなのか、まったく飲めないタイプなのかを知ることができます。アルコールパッチテストの手順
①ばんそうこうに消毒用のアルコールを2~3滴垂らす。
②そのまま上腕の内側に貼る
③7分程度経ったらはがして反応を見る
④さらに10分経った時点での反応を見る
結果
・③で赤くなっていた人はお酒を全く飲めないタイプ
・④で赤くなった人はお酒は飲めるが弱いタイプ
・まったく変化がなかった人は、お酒に強いタイプ
空腹のままで飲まない
アルコールは胃で約20%、小腸で約80%吸収されるといわれます。そのため、空腹のままアルコールを摂取すると、アルコールの吸収が素早い小腸にアルコールが直接流れてしまい、血中のアルコール濃度が急激に上がってしまいます。
胃の中になにか食べ物があれば、胃にアルコールがとどまるので、小腸に流れるスピードがゆっくりになります。そうすると小腸の毛細血管を血液を介して肝臓にアルコールが運ばれた際に、効率よく処理できるので、酔いがひどくならずに済みます。
またアルコールは胃酸の分泌を促す作用があり、空腹の状態で胃酸が出すぎると、胃の粘膜が傷つくこともあるため、空腹時のお酒には注意が必要です。特に炭酸入りはアルコールの吸収を早めるので、空腹時には酔いが回りやすくなります。お腹に食べ物を少しでも入れてから飲み始めるのが、体に良い飲み方です。居酒屋なので「お通し」が出てくるのは、理にかなっているといえます。悪酔いをしないために「水」を飲む日本酒を飲みすぎないためにおすすめなのが「和らぎ水」です。これは、日本酒と一緒に飲む水のことで、合間に水を飲むことで血中のアルコール濃度が多少薄まり、胃でのアルコール吸収も穏やかになるため、急速に酔いが回るのを防ぐことができます。
お酒と同量の和らぎ水を飲むことが推奨されていて、お酒を飲む前に胃に水を入れておくことも大切です。
また、日本酒の中にほんの少し水をいれる「割り水」でアルコール度数を弱くして味わう方法もあります。その際には「日本酒:水=8:2」になるように割ると美味しく味わうことができます。